chocolate melts with music

行ったライブメモ

@下北沢本多劇場

wat mayhem『パンク侍、斬られて候
原作 町田康
脚本・演出 山内圭哉

町田康のSF時代小説、2006年に大阪で舞台化されたとはたしか聞き及んだと思います。それが東京で再演と聞き、行ってきました。脚本・演出&主演の山内さんは、以前に2回くらい舞台を見ているのかな。『ダブリンの鐘つきカビ人間』と『噂の男』。悪い神父さん役で「群馬水産高等学校の歌」を歌ってた(笑)、とか印象的な。
原作は単行本で読んでたけど*1、あえて読み返しはしないで行きました。あの破茶滅茶がどうなっているものか、楽しみにしながら。

うん、確かにこういうものだった、というものでした。そうそう、って思い出しながら観ました。
でももうちょっといろいろあったはず…、長編だしダイジェストになるのは仕方ないか、と観た直後は思ってたんですけど、帰ってきてから読み返してみたら、けっこうそのまんまなんだよね。もちろん分量的にはカットされてるんですけど、台詞とかけっこうそのままなんだなぁって。確かに完全舞台化であるな、と思えました。唯一大きくカットされてるのは、黒和藩の殿様の性格ですね。芝居のあれは、ほぼ出(ry。それはそれで、面白かったし、芝居の演出として正しいと思います(笑)。
山内さんの演じる掛は、まさしく掛十之進でした。すごい合ってたし、カッコよかった。話し方の感じとかが、ああ本当にこういう感じなんだろうなと思える、イメージぴったりで。好きでした。
ただちょっと物足りなく感じたところもあって。独白的な台詞の長いところが削られているのもあって、主人公のキャラクターが多少伝わりにくくなってたんじゃないかとか。町田作品の主人公ってけっこう、いい加減だけど周りで起こっていることの不条理さに翻弄されて、でも考えてることは割りと常識的だったりする、そういうのが演劇の形の中では出しづらいのかなぁ、とかいろいろ考えてもみたんだけど。
しかし結局の所はたぶん、そのよく似合ってる山内さんの掛をもっと見たかったということに尽きるのかもしれないとも思ったり。二幕の後半のほうとか、けっこう長い間いなかったし。
あと、他の登場人物たちがかなり強烈なことになってたので(原作以上に)それで主人公の印象が少し薄まっているのかも。内藤とか真鍋とか。幕暮もかなりいい感じだった。なんかそれぞれのキャラクターがすごくわかりやすく前にずいっと出ていると思えたんですね。なにげに役者さんも豪華なんですよね。ていうか、宇梶さんwまさかそんな役でww

映像も多用されていて、その入り混じった使い方とか面白かったです。特に前半のばかばかしいやつは良かった。それだけ使うんだったらもう、しっかり映画にしちゃったらいいんじゃないかという気も少ししましたけど、でもそれだとリアルになりすぎるのかなぁ。グロイところもかなりあるので、その辺がきつくなりそう。
それとこの圧倒的なばかばかしさは、芝居ならではなのかなぁとも。唐突に映像が混じったりミュージカルが始まったり、ポカーンと置いてかれるところも含めて、この作品の要素ではあるなと。
原作の最後のほうで世界が壊れていくあたり、私はなんとなくソフィーの世界とか連想したんですね。世界のいい加減さが、その世界の中にいる人たちに暴かれていくようなところ。パンク侍においては、そのいい加減な世界の外側の、真実真正とされる世界についてはっきりとした言及はないわけだけど。いい加減な、虚妄の、作り物の世界の中で、登場人物たちがそのいい加減さに自覚的になっていったり、皮肉たっぷりだったり、っていうのは、舞台という箱の中でやる「作り物」っぽさたっぷりの芝居であればこそ、というふうにも思いました。

ラストシーンがすごく良かったです。「ぼくはパンク侍です」の台詞、その後のあの展開、そして青空。「美しく、嘘そのものであった。」という原作のラスト、そのままですね。あれこそ芝居ならではだと思います。

オープニングの踊るところも好きだったな。ともかく、面白かったです。笑うところは笑えるし、引き込まれて観れるし。終わってみたらお尻痛かったけど、長いとは少しも思わなかった。原作のファンは観たらいいと思いますよ。
DVDの発売も決定しているようです。他にもグッズがすごいいっぱい出ててびっくりしましたけど。ロングTシャツとか、ボールペンとか。買わなかったんですけどね…。ロンT、ちょっとカッコよかったですよ。斬られて候。

パンク侍、斬られて候 (角川文庫)

パンク侍、斬られて候 (角川文庫)

*1:あとで過去ログ見てみたら私、町田康作品読んだのこれが最初だったのね