chocolate melts with music

行ったライブメモ

ラスト・デイト

14日19:00と15日15:00の公演を観てきました。
2回目に最前列で観たんですけど、舞台が近いので、すごい迫力でした。ライブなら純ちゃんを近くで観るのも初めてじゃないですが、女優の純ちゃんはちょっと違う。声が激するときとか、ビリビリきて怖いくらい。間に何もないと全然違う、と2回目思ったのでした。ライブで歌っているときに演技入るのともやっぱり違う。
でも、それでも純ちゃんはどこか純ちゃんで、全く別の人物ではなかった、と思う。それが役者としてどうなのか、というのはわからないけど。それとも、ライブステージ上の、歌手と女優が入り混じった純ちゃんを、既にたくさん見ているからそう思うのかな。(「役者」と「女優」って違うかな?違うかも。役ごとに全く違う人物になりきっていると「役者だ」と思うけど、女優というと、役になりながらも必ず本人の個性と存在感が出ていないと「女優」とは思わないかもしれない。そういう意味では純ちゃんは間違いなく「女優」だった。)


劇自体の感想。
鈴木いづみ阿部薫について、私は知らなかったので、この公演が決まってから『ハートに火をつけて!』*1を読みました。それしか読んでいないので、それで何が分かったわけでもないのですけど。
ただ、彼女の自伝的長編小説であるこの本を読んで得た鈴木いづみのイメージと、『ラスト・デイト』のいづみは結構違う印象だったのです。それが、戸川純が混在しているということなのか、あるいは脚本家*2を通しているからなのか。男性目線を介しているからなんじゃないか、ということは少し思ったんだよね。ケラさんの『すべての犬は天国へ行く』の世界のような「男がいなくなったことで壊れていく女」みたいなもの、だけどそれは実は男の想像にすぎない*3っていう。少なくとも私は鈴木いづみにそれを見なかったので。*4
といって、べつにそれが劇の主題というわけではなく(ただ、そういう方向性もちょっとだけあるような気がしただけで)、鈴木いづみ阿部薫という、非常に特異な、お互い極限にいるような二人の間にある、密度の濃い空間それ自体の表現なわけで。ストーリー運びは秀逸だったと思います。二人の関係性、過去から現在の時点まで、というのが会話の中から徐々に立ち上がってくる。特に「今の時点がどこなのか」が分かってくるところは、このお話の中の重大な転換になっていて、ええ?という意外性がありました。
こういう主題なので、ある意味エピソード紹介的になる部分もあったとは思いますが、急に昔話に飛ぶところも、あと、さっきまで激しく言い合っていたのに、次の瞬間はもう笑い転げてたり、ふとしたしぐさのなかにある甘えを読み取ってふわっと融和したりする、そういう当たり前の恋人同士らしいところ(エキセントリックな所ばかりじゃなく)が垣間見られる描写が、とても良かったと思います。『ハートに火をつけて!』には、あまり薫(作中ではジュン)との間の暖かい関係の部分はあまり書かれていなかったと思うので。これは本の感想になるけど、一人称の自伝的小説だけど、どこか客観的で引いた視点から書かれてる感じがするし、恋愛の話がメインなのに、当たり前の感情描写ってとても少なかった印象なのです。そういうのは分かってるでしょうとでも言わんばかりに省いちゃって、ビューって行っちゃうような、文章にまで速度を感じる小説でしたよ。
クライマックスで、出て行こうとする薫をいづみが止めようとしてもみ合いになり、それがだんだん不恰好なワルツのステップみたいな形になっていくシーン、そしてその結末が、とても好きでした。薫が離れていくときの、純ちゃんの表情がすごく良かった。その後のラストシーンも。
ただ、最初の話に戻るのだけど、その「去られた女の姿」は、どちらかというと「戸川純的」なんじゃないかと、それは鈴木いづみなのか戸川純なのか、というのが峻別がつかないような、そんな感覚があって。
そんなわけで、もうちょっと鈴木いづみを知らないと分からないな、という思いがしたので、もう早速観劇の翌日に、アマゾンでプレミアムコレクションと写真集を注文しました。写真集は、アラーキーの、劇の開演前にもスクリーンにずっと映されていて、とても惹きつけられたので。すぐ届いたけど、まだ読んでないです。

IZUMI,this bad girl. Nobuyoshi Araki+Izumi Suzuki

IZUMI,this bad girl. Nobuyoshi Araki+Izumi Suzuki

鈴木いづみプレミアム・コレクション

鈴木いづみプレミアム・コレクション


これも読んでみたらいいのかな?『ラスト・デイト』の参考文献にも入っているし。映画化作品は町田康主演なんですね!(って今阿部薫のキーワードで知ったよ)

エンドレス・ワルツ

エンドレス・ワルツ

*1:純ちゃんが解説を書いています。この本の感想も書きたいと思っていたのに、もう一回読まないともう書けないな…。

鈴木いづみコレクション〈1〉 長編小説 ハートに火をつけて! だれが消す

鈴木いづみコレクション〈1〉 長編小説 ハートに火をつけて! だれが消す

*2:岩崎正裕(劇団太陽族

*3:とケラさんは『すべての犬は天国へ行く』の解説(by女性)に書かれていた。

*4:ただ台本は実はいづみ作品のコラージュ的なところもあるのかもしれないけど。そこはもっと読んでないと分からないな。おそらく台本中には、いづみと薫にまつわるたくさんのキーワードが散りばめられていたんだろうというのは、パンフレットのふたりの関連年表を見ても分かる。