chocolate melts with music

行ったライブメモ

tricomi featuring 戸川純 『彼が殴るの』CD発売記念ライブ

「ゲストだから、2,3曲しか歌わないだろうと思って来なかった人を悔しがらせよう」という水谷氏の思惑は大当たりであったことでしょう。トリコミ featuring 戸川純、というより半ば、戸川純 produced by トリコミ

オープニングアクト
bios(横川理彦ストリングス・トリオ)

tricomi
水谷紹(vo.gt. bsx)、Whacho(ds+per)、かわいしのぶ(b)

ゲスト
戸川純(Vo)/ホッピー神山(覆面パト)

18:30開場、19:30開演で、私が着いたのは19:00過ぎくらいだったと思うんですが、まだ人は少なめで、こんな空いてるドアーズは初めてだ、とか思いました。前に来た2回は、2回ともギュウギュウ詰めの思い出が強くてね。フロアの両サイドにそれぞれ3×4列くらい、椅子が並べられていて、それは既に埋まってました。そして、開演の頃には、けっこう人が入っていました。
入り口付近のバーの向かいに、グッズ販売コーナーがあり、トリコミ東京中低域のCDなど売られておりました。今回、『彼が殴るの』のCDの帯に書いてあった、物販で帯と交換してくれる粗品は、トリコミのポストカード。ウサギさんが2体、片方が包丁もってって、もう片方は真っ二つに切られてる、イラスト版。相変わらず怖い、というか痛いんですけど…ひー。

始まったのは10分押しくらいでしょうかね。ステージに向かって左手のほうの、2階席からステージの上まで伸びている渡り廊下のようなところに、椅子と譜面台が3つずつ配置され、そこにバイオリン、チェロ、コントラバスのトリオが。あんなところで?しかも弦楽?と思っていたら、始まった曲がまた、なんというか中国風、まるで胡弓が奏でそうなメロディで、コントラバスは胴を叩いてリズムとったりしてて、意外感に打たれるオープニングでした。そのあとの曲は、もうちょっと洋風(ケルトとか?)な感じが多かったと思いますが。こういうのは、なんだろう、アヴァンギャルドって言うの?アヴァンポップ?分からない言葉を使うなって感じですね。いわゆるクラシックではあまり出さないような音、奏法があったように思います。詳しくないですけど。けっこう聴き応えがありました。途中まで、チェロのほうがいい音のような気がしてたんですが、あと2曲と言った次の「ノリノリです」という触れ込みつきで始まった曲でのバイオリンの弾きっぷりがもう、凄くて。なんだか、めったに見ない、良いものを見たなぁ、というところです。

biosさんの最後の曲が佳境に差しかかった頃、2階席から1階フロアへ人が降りてきて、客席を掻き分けてステージのほうへ…って、あれホアチョさんじゃん、メンバー? あとで分かったんですが、2階の渡り廊下のところがステージへの通路で、そこで演奏してて通れないから、下から行ったということみたいです。そして、ストリングスの曲に交じり合うようにして、バンドの曲がスタート。最初の曲は、水谷さんが「ロックンロールは女なの」と歌っていたことが印象的。女性的な歌い方をする人なのかと思った。

2曲目でゲストの登場。ホッピー神山さんと戸川純さん。そして早速、「彼が殴るの」を。この曲、ノリがいい。純さんも最初からノリノリ。それから水谷さんボーカルの「殺し屋の娘」、そのまま続けて「クーラー」と、CD収録3曲を。「クーラー」は生で顔を見ながら聴けて、すごく良かったです。「あんたたち、幸せそうに暮らしてるくせに、クーラーもないの?クーラーなくても幸せなんだ?」とか、いい顔だったな。ハマッててカッコよかったです。

水谷さんが歌っている間、純さんはステージ中央に置かれた椅子(ソファかと思ったんだけど、車輪付の回転椅子に派手なタオルをかけたものでした)に座って、ノッてたり、ちょっと回ってみたり。「自分の歌う曲以外は、今ここではじめて聴いているんです。(客席の)みなさんと同じ立場で。ひとりだけ、こんないいところにいて、ごめんなさいね」みたいなこと仰ってました。なのにど真ん中にずっといることになって、「椅子を用意してくださいと言ったので、端のほうかと思ったら、こんなで…こんな派手なものもかけられてて…。しかもゲストなのに、なんていうか、放置プレイみたい」とMCで(笑)。あと、椅子の横の台の上に電話(ダイヤル式だったかな)が置いてあって、純さんがこれは?って水谷さんに聞いたら、「向こうの音響の人とかに通じるから。でも、こっちの言うことが向こうに伝わるだけで、向こうからは聞こえないから。かかってはこないよ」とか言われて、純さんちょっと残念そうで、「なんか象徴的ですね、一方通行で…」みたいなことを言っていました。

その後もライブは、水谷さんと純さんが交互に歌う構成。何をどれだけ歌うかと思っていたら、たくさん、しかも新曲を歌ってくれたので、うれしいわ、楽しいわ。なんでも、「ゲストだし、2,3曲しか歌わないだろうと思って来なかった人に損させようと思った」という水谷さんが二、三日前に詞と曲を作って送りつけたとかって、本当に出来立ての新曲。CD収録の3曲以外はほとんど曲名分からないですが、2曲だけ純さんの歌ったやつを水谷さんが紹介してくれて、それぞれ「カスタム」と「店長に負けるな」でした。
「カスタム」は、まず普通のしゃべりのように「私の彼氏は、とても、カスタム…いえ、ハンサムな顔をしているの。でも、私が好きなのは、そういうことじゃなくて」と始まり、そのあと急に、呪文か念仏、というか、巫女のお告げというか、そんな一本調子で「いーえーがーかーねーもーちーー〜〜いぃっ!」みたいな感じで、最後だけクィって尻上がりに音が高くなるんだけど、ああ、こんな書いてもあまり伝わらないでしょうか。その調子でいろいろ、とにかく彼の家がものすごいお金持ちで、政治的影響力も強くて、ということを言っていて、聞いてるといくつか笑ってしまうところもあったりして。「うちの実家もーこれで老後安泰〜」とか。バックの音楽は不協和音というか、ほとんど音楽より効果音というか。水谷さんはバリトンサックスでなんだか不穏な音を吹き、ホッピーさんとホアチョさんは、何かいろいろよく分からない楽器やらなにやらを次々に取り出しては鳴らし、ベースのかわいさんもおもちゃのベース(ギター?ボタン押してピコピコ鳴るようなやつ)を出してみたり、ホアチョさんと一緒に、プラスチックのチューブみたいのをぐるぐるぶん回してヒョーヒョー音鳴らすやつ(正式な楽器なんだよね、何ていうんだっけ?)を振り回してみたり、していました。最後はまた台詞で、「でも、私が好きなのはそういうことじゃなくて。彼はとても、カスタム…いえ、ハンサムな顔をしているの」と終わる。とにかくすごく変な曲でした。面白かった。
「店長に負けるな」のほうは、一転、かわいらしい曲調で、純さんの歌声も少女風にかわいらいしく。でも実は詞の内容はけっこうすごいことになっていたような。おかあさんとわたしが街へ食パンとソーダ水を買いに行くんだけど、お店の店長が「振り向きもせずにご挨拶」。それで「店長に負けるな!」。最後はお店に火をかけて逃げてくる、という内容だったような…。「汝ら母子、食パンとソーダ水を愛す」という純さんの天使のような声が、印象的でした。タイトルが「店長に負けるな」だっていうのが面白いんだけど。もう一回ちゃんと聴きたいなぁ。
そのあとの純さん曲は、2曲くらい、渋いロックンロールなやつを。声も低めで、「ローハイド」か「サイコキラー」みたいな歌い方、と私は思いました。「傷ついちゃったのよ〜」で始まる曲のあと、純さんは「本当はもっと感情移入して歌いたいんですけど、全然そんな余裕なくて…。でも、無意識にしていると思います!」と言ってました。なにしろ2,3日前に送られてきた歌詞を見ながら一生懸命だったので。しかしそのわりには、さすがと言うべきか。いろんなタイプの曲があって、純さんのいろんな魅力を堪能できる、良いライブだったと思います。
最後の曲は、ミラーボールがゆっくりと回る中歌われた静かな曲で、セリフものだったかな。これも、静かなんだけどただ事じゃないことになってそうな詞で。死体が何体か出てきていたような。でもすごく静かに、淡々と歌われるんだな。サビは「バスは、空いたバスが来るまで何台でもやり過ごすの。空いたバスに乗って座れば、それがファーストクラス」というような歌詞でした。

一度退場してから、アンコール。まずはトリコミの3人が出てきて一曲。ずっと後ろにいてあまり見えなかったかわいさんが、このときやっとちょっと見えました。カッコよかったです。2階の渡り廊下のところにホッピーさんと純さんが座って、ステージを見ていました。
その後、ホッピーさんが降りてきて、演奏に加わりました。純さんはまだ上にいたんですが、最後は呼ばれて降りてきて。たしか1曲、洋楽のカバーと、「彼が殴るの」もう一回を、やりました。二度目の「彼が殴るの」は、最初以上にノリノリで、感情入ってて、迫力ありました。「黙ってばかりはいられない〜」以降、顔変わってたましたもん。そこが一番生き生きと、楽しそうに歌ってた気がします。

純さんが元気で何より。
服装は、白っぽい地に花柄のキャミソールワンピース。丈はミニ。グレーのジャンパーを羽織って。ベルト、赤い革ものとじゃらじゃらしたチェーンベルトの二本。有名ブランドのショルダーバッグ。の他にもう一つトートっぽいのも。右の手首に腕時計3本+ブレスレットいろいろ、左もいろいろ。脚、水色っぽい柄ストッキング。靴は赤のスニーカー。登場時は赤い帽子をかぶってきて、これが可愛かったなぁ。
今回の印象では、髪の毛きれい!というのが強いです。帽子かぶってたので、わりとぺたんこだったんですけど、黒っぽくてつやつやしてきれいだった。途中ステージ上で逆毛立てようとしてましたけどね。前見てたときって、もっと茶色くて、ふわふわさせてるのは良いんだけど、痛みも激しそうで、そして段々ひどくなってそうだったんですが、見事に再生してたなぁ。生え替わるとはいえ、あんなきれいになるものなのか。不老不死なんじゃないかこの人、とかちょっと思ってしまった。
声は、わりと低音域が多かった印象。無理な高音はなかった。といってもかなり高いんだと思うけど。良かったと思います。

水谷さんの印象。
まず外見的なところから言うと、うーん…、映画『星くず兄弟の伝説』に出てきそうな、と言ったら、分かる人には分かってもらえるでしょうか。オーバーオールのジーンズにベレー帽、という出で立ちなんかに、そんなことを感じてしまったり。あと、中性的な印象。歌声も柔らかく、静かに淡々と歌う感じ。進行も淡々と、サクサクと。そのペースがいまいち純さんとかみ合わなくて、純さんに話を振っておいて、でもすぐ「じゃあ次の曲」って感じだったり、ちぐはぐで、でもほのぼのして可笑しかったです。
あと、詞の内容なんですが、全部聞き取れるわけではないですけど、雰囲気としてはけっこう、生臭さがない感じ、がしたんですよね。純さんは、近いものを感じる、というふうに言っていたけど(水谷さんに向かって「血とか好き、ですよね?」と聞いて確認してたりして、なんだか面白かった)、純さんのほうがもっと生理的なところに根ざしてるような感じがするんですよね。男女差、なのかも知れないし、もっと違うことかもしれないけど。ともあれ、独特の世界観には興味を惹かれるものがあります。
後日談:4月29日ヤプーズライブのMCでも、水谷さんの詞にとても近いものを感じる、ただ、私のは何をしても結局は死なないけれど、彼のは最後までいっちゃうのが多い、というようなことを言ってたと思います。今度の戸川純BANDの新譜(トガワフィクション)で、一部の詞を水谷さんに書いてもらった、という話もあったような。

今回のゲスト参加はもともと、「彼が殴るの」の詞曲ができたときに、誰に歌ってもらったら良いだろうと水谷さんが言って、「それは戸川しかないでしょう」とホアチョさんが薦めて、それで二人が会ったのだということですが、水谷さんの日記なんか見てたら、もっと前に出会えてたらなぁ、みたいなことを言っていたりして、なんだか水谷さんもすごく、純さんに歌わせることに興味があるみたいでした。それだからライブでもこれだけ新曲作って、全体の半分近くも歌わせて、ということになったんでしょうね。それがとても良い出会いで、ここから面白いことが始まりそうな、何かが生まれてきそうな、そんなものが感じられました。水谷さん、たしか、ここでやった新曲も録音している(ひょっとしてライブを録ってたのかな)と言ってたと思うのですけど。すごーい、出て欲しいな〜!今後に期待ですね。